2005年05月16日

世間の目(ブックレビュー)

すでに発売(配布)期間を過ぎた雑誌に掲載されたブックレビューを随時掲載していきます。

世間の目
佐藤直樹/光文社/1470円

 会社勤めをしていたころ、遠距離の出張に行ったら必ず土産(たいていはお菓子)を買ってくる、という暗黙の社内ルールがあった。そういや食堂には「お局」指定席なんてのもあったっけ。会社の規約にそんなことは書かれていない。いま思えば、これらは会社という「世間」の掟だったのだ。
 本書を読めば、日本にはこうしたバカの壁ならぬ「世間」の壁が、至るところに張り巡らされていることを痛感するはずだ。「世間」は何よりも同調を求め、自分たちの掟を破る者に対して、陰口を言う、交際を絶つ、無視するなど、容赦のない制裁を加える。地域、学校や会社で起こる村八分的なイジメ、凶悪犯罪者の家族への度を過ぎた非難、ネット社会での匿名性を盾にとった個人攻撃――本書が書き出す「世間」のカルテは、日本人の行動文法そのものだ。イラク事件人質の家族バッシングもまた、「世間」を無視したがゆえの制裁だったといえないか。著者もいうように、「世間」は、「きわめて強力に個々の人間を拘束するような『権力』を発生させる」のだ。
 話は他人事ではない。胸に手を当てれば、ぼくもあなたも程度の差こそあれ、「世間」病の患者であることに気づくだろう。その症例研究は、歴史学者の阿部謹也や本書の著者である刑法学者・佐藤直樹らによって、ようやく始まったばかりだ。いまだ特効薬はないが、症状を自覚し、ビョーキとうまく付き合うことで、世の中はずいぶんと生きやすくなるはず。本書はそのための格好の常備薬となってくれるに違いない。
posted by saitoshokai at 06:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 仕事で書いたブックレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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